【モンゴル旅2024】#6 どうなる!?ショウ出演02
「モーコ、久しぶり!日本からの道中、順調だったかい?」
人懐っこい笑顔のご年配の男性、ゾリグトさんは、オトゴー先生のご主人でサーカスのプロデューサー、ディレクター。
学生時代はロシアのサーカス学校に留学し、アクロバットのパフォーマーとして活躍した後、再度ロシアのサーカス学校に入り、次はサーカスプロデューサーについて学んだのだそうです。モンゴルで初めてのテントサーカス公演を行ったり、ロシアや中国、ヨーロッパなど世界中からモンゴルへサーカスを招致している方です。
「モーコ、マイ」(モンゴル語で「はい」の意)と一冊の水色の本を渡し、
「モンゴルサーカスについてまとめた最新刊だ。民営化後、現在までの変遷について書いたよ。この17年間のことが書いてあるから、読んでみて。君についても、ちゃ~んと書いたぞ。ほら、プレゼントだ」
「わーっ、素敵な表紙ですね。この17年間についてまとめられたのですか。すごい!ありがとうございます!」
『モンゴルサーカス民営化後 17年間』と題された、全カラー、220pの本です。サーカスパフォーマーのシルエットが表紙を飾っています。内容は、モンゴルサーカス関係者の紹介や、大会実績、出演実績が網羅されているようです。
表紙をめくると、ゾリグトさん直筆のメッセージが。
モンゴルで”ユルール”と呼ばれる、祝詞が書かれていました。さらさらっと慣れた手つきで書いているのが、なんとも粋です!
私についても触れていただいているページ。教室で開催された新年パーティーの際にオトゴー先生と撮った写真。当時23歳でした。(笑顔ですが、腰がバリバリ痛かったころです…)
ゾリグトさんはほかにも何冊か本を出して、新聞のコラム連載やドキュメンタリー番組を作ったりもしています。サーカルについて記録し続けている功労者です。
本をペラペラとめくる私の横で、オトゴー先生がゾリグトさんに、さきほどの話を伝えているのが聞こえました。
「モーコがね、昨日リハーサルへ行ったら、舞台監督から『ショウに出さない』って言われたらしいのよ。おかしな話よね」
ゾリグトさん「何だって?その舞台監督って誰だ?」
オトゴー先生「それが、名前がわからないんですって。多分、〇〇だと思うけれど…」
ゾリグトさん「今ウランバートル劇場で舞台監督を務めているのは、確か〇〇だったよな。であれば、俺の後輩だ。電話してみようか」
名前、名前、何て言ってたっけ…。ダメだ、全然思い出せない…。
ふと、いましがたいただいた本にその人も載っているのでは?と気づき、ページをめくってみると…
私「あっいた!このひとです!」
生徒たちも「ちょっと写真が若いけれど、確かにこのひとだったね!」
するとゾリグトさんが「やはりこの男か。コイツは、ゲレルバータルといって俺の後輩だよ。モスクワのサーカス学校のプロデューサー科を卒業したんだ。電話番号知ってるし、ちょっと今話すわ」とスマホを取り出し、ピピッと操作すると、
「あ~、もしもし?ゲレルバータル?俺だよ、ゾリグトだ。最近どうだ?…うむ。
お前、今、コントーションのショウの仕事をしているだろう。そこに出ている日本人チームは、俺の妻の弟子なんだが。モーコって言ってな。今、彼女から話を聞いたら、何か困っているようなんだけれど、何が起こっているんだ?モーコはモンゴルで、俺の妻の教室で学んでいた弟子なんだよ。良くしてあげてくれよな?」
だいぶ端折りましたが、そんな内容のことを話してくれました。
しばらくしてから、電話を終えたゾリグトさんは私の方へ向き直り、
「舞台監督に話しておいたから。大丈夫、君たちをショウに出さないなんてことはない。ただ、演出的にどうすればよいのか、少し考えさせてほしいとのことだ。もしかしたら、モンゴル人のダンサーグループと一緒にやってもらうことになるかもしれないし、踊りのレッスンを受けてもらうことになるかもしれないけれど、その際は、今回のショウについて理解して、大人しく従ってほしいとのことだ。
俺は『大丈夫。モーコたちはそんな気難しい人間じゃない。運営に寄り添っていうことを聞くひとたちだから心配するな』と言っておいたから。何かしら注文されると思うけど、言うこと聞いてあげてね。
さ、これで一件落着かな!?」
なんて頼もしい…!!
ゾリグトさん、私が学生だった頃、体調を崩したときに病院へ連れて行ってくれたり、たまに練習を見に教室へ顔を出したときは「ちゃんと練習を続けるんだよ。上級レベルに達したら『モンゴル初の日本人コントーショニスト、モーコ!』と司会をつけて、舞台デビューーさせるからな~!」と冗談ぽく言ったりして、気のいいおっちゃんだな~^^ という印象でしたが、この世界ではすごく顔のきく方だったなんて…!
オトゴー先生が「ゾリグトが言ってくれたから、もう大丈夫よ。だってゲレルバータルは、彼の後輩なんだから。
おそらく、アンジェリークとゲレルバータルの間の関係がうまくいってないんじゃないかしら?
だから、あなたたちのことがモンゴル側に伝わっていなかったり、反対にモンゴル側のことがあなたたちに伝わっていないのだと思うわ。
舞台監督だけじゃなくて、アンジェリークにも、同じことを同じように確認しながら進めていったほうがよさそうね。あなたも、ひとつひとつのことを確認しながら進めなさいよ」
ゾリグトさん「ゲレルバータルも、悪い奴じゃないんだ。ずっとサーカスや舞台関係の仕事を続けていて、仕事熱心な奴だ。
アンジェリークとも、念のため話しておくか。これでいったん大丈夫だろう。
じゃあ、また何か困ったことがあったら言うんだよ」
どうなっちゃうのコレ?と先行き不透明だったのが、一気に晴れた感覚。
オトゴー先生にゾリグトさん、なんて心強いんでしょう!?
ホッと胸をなでおろしました。
生徒たちに、予定通りショウに出演することになるよ、と伝えて、その後の練習にしっかり励んだのでした。
《続く》
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